交通事故で有給を取得しても休業補償・休業損害は請求できる?

「交通事故で有給を取得した場合でも、休業補償や休業損害は請求できるの?」

交通事故でケガをし、仕事を休んだ場合、そのせいで得られなかった収入は、休業損害として請求できるのが通常です。

では、有給休暇を取得した場合でも休業損害は請求できるのでしょうか。

実は、有給休暇を取得して仕事を休んだ場合、労災の休業補償は請求できませんが、休業損害は請求できます。

もらえるはずのお金を受け取るためには、保険会社に任せたままにせず、被害者自身が請求できる項目や金額について知っておくことが重要です。

このコラムでは、交通事故の休業損害について弁護士が解説します。

「休業損害」と「休業補償」の違いとは

「休業損害」と「休業補償」は、どちらも交通事故でケガを負って働けなくなったときに、減った(得られなくなった)収入を補填するものです。

たとえば、次のような場合には、減った分の収入(あるいは利益)を加害者側に請求できます。

・治療などのために会社を休んだために給与や賞与が減った
・経営する店を閉めざるを得ず、その結果売上げや利益が減った

しかし、「休業損害」と「休業補償」とは、言葉の意味合いが少し違います。

「休業補償」とは、労災保険へ請求するときに一般的に用いられます。

一方、交通事故で加害者や保険会社に損害賠償を請求する場合には、「休業損害」という用語を使うのが一般的で、受け取る側からのニュアンスが強くなります。

労災の「休業補償」とは

労災の休業補償とは、仕事中や通勤中にケガをし、それによって会社を休んだ場合に、休業による減収の補償を労災保険に対し請求するものです。

労災保険とは、1人でも従業員を雇う使用者に加入が義務づけられている保険で、保険料は全額会社が負担しています。
なお、労災保険が使えるのは、仕事中や通勤中の事故により損害を受けた場合のみです。

労災の休業補償で受け取れる金額

労災の休業補償の金額は、休業1日につき給付基礎日額の60%に相当する額です。
労災の休業補償には、給付基礎日額の20%に相当する「休業特別支給金」も付加されるため、合計して80%の支給が受けられることになります。

【計算式】
休業補償給付=給付基礎日額(※)の60%×休業日数(休業4日目以降)
休業特別支給金=給付基礎日額(※)の20%×休業日数(休業4日目以降)

※給付基礎日額とは、平均賃金のことをいい、事故直前3ヵ月間に支払われた賃金総額(ボーナスは除く)を、その期間の日数で割った1日あたりの給付額です。

なお、休業損害と休業補償で補償が重複した場合、休業補償給付の部分については一度しか受け取ることができません。この点に注意が必要です。

有給休暇を取得したらどうなる?

交通事故によるケガの治療のために有給休暇を取得した場合、その休暇は休業損害の対象になりますが、休業補償(労災)の対象にはなりません。

(1)有給休暇取得日は休業損害の対象になる

有給休暇を取得することは、法律(労働基準法第39条)で定められた労働者の権利です。
したがって、交通事故によるケガを理由として取得することもできます。

もっとも、有給休暇には給与が支払われているのに、なぜ休業損害の対象になるのでしょうか。

それは、「交通事故にあったことでほかの理由で有給休暇を取得する自由を奪われた」と考えられるためです。

そもそも交通事故にあわなければ、治療のために有給休暇を消化しなくて済んだはずです。

そのため、交通事故のせいで有給休暇を取得したことを損害だと考え、休業損害の対象にするのです(※)。

※神戸地裁平成13年1月17日判決は、その理由として「本来なら自分のために自由に使用できる日を本件傷害のために欠勤せざるを得ない日に充てたのであるから」と述べています。

ケガの治療のため有給休暇を取得した場合には、休業損害証明書に、次の項目についてきちんと記載しましょう。

• 治療のために有給休暇を使った日数
• 損害(=有給休暇を取得しなくても得られたはずの収入)

【休業損害証明書】

(2)有給取得日は休業補償(労災)の対象にならない

休業補償(労災)は、有給休暇を取得した日については補償の対象となりません。

労働基準法第76条によれば、休業補償(労災)は次のア〜ウの要件をすべて満たすときのみ給付されます。

ア 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため
イ 労働することができない
ウ 賃金を受けていない

つまり、有給休暇を取得した場合は上記のうちウの要件を満たさないため、休業補償(労災)は支払われないことになります。

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【休日別】休業補償(労災)・休業損害の取り扱いの違い

有給休暇以外にも、勤務先には次のようにいくつかの種類の休日があります。

1.所定休日
2.産休や育休     など

ここでは、有給休暇以外の所定休日や育休などについて、休業補償(労災)・休業損害における取扱いを説明します。

(1)所定休日

「所定休日」とは、「法定休日」(労働基準法第35条により週1日必ず設けなければならない休日。多くは日曜日)以外に、勤務先が任意で定めることができる休日をいいます。

現在は週休2日制をとっている職場が多く、土曜日などがこれに該当します。
所定休日については、それぞれ次のような扱いとなります。

<所定休日の休業損害・休業補償(労災)の取扱い>

休業損害休業補償(労災)
給付対象となるか・基本的には対象外 ・計算方法によっては対象にできる場合がある  例)入院中など連続して休業しており、休業による損害を算出するにあたり、平均日額(事故前3ヵ月の給与の合計額÷90)に所定休日も含めた日数をかける方法下記ア~ウの要件を満たす場合は対象になる
ア 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため
イ 労働することができない
ウ 賃金を受けていない

(2)産休や育休

事故にあった被害者が、産休や育休中だった場合は次のとおりです。

<産休・育休の休業損害・休業補償(労災)の取扱い>

休業損害休業補償(労災)
給付対象となるか・会社から賃金を受け取っている場合は、原則として給付対象外 ・勤務先から一部賃金を受け取っている場合でも、主婦としての家事労働はしており、事故によって家事労働が制限されているなどの主張が認められれば、給付を受けられる場合がある・会社から賃金を受け取っている場合は、給付対象外

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【まとめ】有給取得すると、休業補償(労災)は請求不可だが休業損害は請求可能!

「休業補償」と「休業損害」は、どちらも事故でケガを負って働けなくなったときに、減った(得られなくなった)収入を補填するものです。
ただし、「休業補償」が「労災の休業補償」のことを指す場合には注意が必要
です。
なぜなら、両者には次のような違いがあるからです。

・ 休業補償(労災)…通勤中や仕事中の事故の場合に、労災保険からもらえるもの
・ 休業損害…交通事故の加害者や、加害者が加入する自動車保険(自賠責保険・任意保険)に請求できるもの

また、交通事故によるケガの治療のために有給休暇を取得した場合、その休
暇は休業損害の対象になりますが、休業補償(労災)の対象にはなりません。

なお、交通事故の被害にあった場合、休業損害だけでなく、治療費や慰謝料なども請求できるのが原則です。
しかし、保険会社の提示する金額で示談してしまうと、弁護士が交渉すればもらえたはずの金額より、低くなってしまうケースがあります。

「保険会社に任せておけば大丈夫」などと思ってしまわず、妥当な金額などについては一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

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この記事の監修弁護士
中西 博亮
弁護士 中西 博亮

弁護士は敷居が高く,相談するのは気後れすると感じられている方も多いのではないでしょうか。私もそのようなイメージを抱いていました。しかし,そのようなことはありません。弁護士は皆,困った方々の手助けをしたいと考えております。弁護士に相談することが紛争解決のための第一歩です。ぜひ気軽に弁護士に相談してみてください。私も弁護士として皆さまのお悩みの解決のために全力を尽くします。

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